チャプレンより(第7回)

5月19日、ハリー王子とメーガン妃のロイヤルウェディングは世界でも話題になりました。
早速、聖書の授業でロイヤルウェディングを見ることとしました。
イギリス王室の結婚式ですから、イギリス人のカンタベリー大主教が説教者に選ばれるのが常識的なことでした。しかし、説教者はアメリカ聖公会の初めての黒人の総裁主教であるマイケル・カリー主教様でした。

ハリー王子の結婚相手はアメリカ人女優のメーガン・マークルさんです。
彼女の母親は、アフリカ系アメリカ人、奴隷の歴史を持つ黒人でした。
当然、この彼女の出自について、差別的な意見を持つ人は数多くいます。ネット上の英語の掲示板などを覗くと、そこには酷いヘイトが多数書き込まれています。
しかしなおも、この二人は結婚する道を選びました。
しかしなおも、英国王室は、この二人を祝福する道を選びました。
しかしなおも、教会は、神の名において、愛するということ、これを阻む人間の憎悪を否定しました。

ですからこの結婚式というのは、とても意味深いものです。説教者が、アメリカの黒人であるカリー主教様というのは、それだけで意味深さがわかるというものでしょう。
キリスト教の結婚式とは、その二人を通して、私達全てが愛について、神の愛について学ぶ式なのです。

その説教はまず、黒人の権利獲得のために戦った、マーティン・ルーサー・キング牧師の引用から始まりました。
それは「私達は愛の力を、愛の贖いの力を探さなくてはならない。もしそれを見つけたのなら、私達は古い世界を新しい世界へとすることができるでしょう。愛こそが、唯一の道なのです」という言葉です。
もし愛というものがあれば、自己中心的でない神と人とを愛する力があれば、世界は変わる、ということです。

そして、20世紀の神学者、科学者、神秘家でもあるフランス人、テイヤール・ド・シャルダンの言葉が紐解かれました。シャルダンはこう述べます。
「私達の文明は、火を見つけることによって、火によってもたらされた。火があったから、青銅の時代が生まれ、鉄の時代が生まれ、産業革命が生まれ、様々なテクノロジーのもと、人間生活は良くなった。火によって、歴史は変えられた。火は、人間が発見したものの中で、歴史を変えた最大のものだ」
「だから今度は、今こそは、愛の火を、愛の炎を求め探さなくてはならない。そのことによって、私達の人間性は、私達の歴史はまた、新たに変えられていくことだろう」と。

この説教の翌日は、聖霊降臨日です。クリスマス、イースターと並ぶ、キリスト教の最も大切な日の一つです。
聖霊降臨日とは、一人一人の心の中に神の愛の力が与えられているということ、私達の魂の奥には、たとえ私達が普段それに気づくことがなくとも、愛の炎が灯されているということを覚える日なのです。

愛の炎とは、時には激しく燃えさかり世界を変える力を持ちうるものですが、普段はむしろ、ロウソクの灯火のようなものです。ロウソクの灯火は、近づかないと、そこに火があることに気づきにくいものです。私達が普段求める明るさの中では見つけにくいものです。私達が人生の暗闇の意味を知るとき、はじめて気づくものです。
愛とは、そういうものです。

であれば、私達は何の考えもなしに、誰かの側を無視するかのように通り過ぎたり、大声をだして罵倒したり、自分は誰よりも明るさの中にいると思い込みたいがために、様々なことを傲慢にも誇っていいものではありません。
その時あなたは、誰かの心の灯火だけでなく、自分自身の灯火をも、そして神様の灯火をも、消してしまおうとすることになるのです。

説教の後、聖歌隊によって歌われた曲は公民権運動に使われた聖歌「stand by me」でした。
神様は常にあなたの隣りにおられます。あなたの側で、その灯火が消えそうなとき、その火を守って下さっています。
イエス様は言われます。たった一つの掟、「互いに愛し合いなさい」と言われます。
それは難しいことではありません。常にあなたの側には、あなたを大切に思う人、家族、友人、そしてイエス様がおられるのですから。
互いの心の奥にある愛の灯火に目を留めましょう。共に歩みましょう。私達が誰かの側に寄り添う人として歩めることを、深く祈り願っております。