2010年から始まったケンブリッジ大学でのサイエンスワークショップは今回で3回目を迎えることとなった。今年は京都滋賀地域の4校のスーパーサイエンスハイスクールの高校生に加えて、東日本大震災被災地域を代表して福島県、宮城県より17名の高校生、教員を英国に招待した。ケンブリッジ大学でのワークショップに先立ち、立教英国学院で3日間のロンドン研修が行われた。研修先は世界で最も古い科学学術団体の創立を誇るRoyal Society(王立協会)、19世紀の電気化学の先駆的役割を果たしたRoyal Institution(王立研究所)にて科学研修を行ったほか、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジを訪れ、150年前日本より初めてイギリスに留学を果たし西欧近代科学の日本への導入に功績があった伊藤博文らの足跡も訪ねた。
ケンブリッジ大学でのワークショップでは、ケンブリッジ大学で活躍する第一線の科学研究者に実験指導を仰ぎながら、日英の高校生らが共同して実験課題に取り組んだ。実験を行うだけでなく、大学寮で寝食を共にしながら、科学を通しての国際交流に務めた。被災地域を代表する高校生たちは東日本大震災後の原子炉崩壊に伴う放射能汚染の状況について、現在被災地域が抱えている諸問題について高校生の立場より発表を行った。京都地域の高校生は放射能汚染への不安、将来の原子力発電に関するアンケート調査を元に日本が抱えている問題について発表を行った。
期間中には科学研究のみならず、日本語教室、文化交流、スポーツ交流が、科学交流と有機的に繋がり合い、普段の生活では学ぶことのできない本当の意味での国際交流が実現できたと感じている。
ケンブリッジ大学での本プロジェクトも指導をいただける研究者の数が毎年ごとに増え、今年は10ものプロジェクトテーマが設定された。ナノ粒子の化学合成、石油を精製する藻の光合成条件の研究、現在絶滅の危機にある狐の生態分析とDNA解析、キャベンディッシュ研究所で行われたDNAの物理的性質とその応用、生分解性プラスチックの合成、医療放射線専門家による放射能安全性に関するディスカッション、放射能損傷におけるDNA修復たんぱく質の研究、サイエンスコミュニケーション等、いずれのプロジェクトも社会の中で科学がいかにはたらくべきかを若い世代の高校生が体験できるようになっている。日本でも英国でも多くの科学者が将来の科学のあり方を憂い、若い世代の高校生の育成に関心を持って、大学と学校との連携が叫ばれている。本ワークショップがケンブリッジ大学の中で徐々にではあるが、その地位を確保し始めていることは、先にも述べた社会と科学との密接な結びつきの大切さが大学の研究者に共感を受けている点と考える。
最終日には、一週間の成果について日英の高校生から発表が行われ、天文物理学の専門家であるリース卿(元王立協会会長、トリニティーカレッジ学長)より科学における国際交流の大切さについて直接高校生にメッセージが語られた。コーパスクリスティーカレッジで伝統に従い、ラテン語での食前の感謝に始まるディナーパーティーが開催された。一人一人の参加者にこのワークショップで成し遂げた成果を賞賛し、ロールスロイスジャパン社長、ソーンリー氏より証書が手渡された。将来ケンブリッジ大学で再会することを約束しながら、日英サイエンスワークショップは終了した。
2013年の夏には日英で二つのサイエンスワークショップが企画されている。英国では、ケンブリッジ大学に再度東北被災地の高校生を招待する予定であり、加えてロンドン大学でも日本人留学生150周年記念行事の一環として、被災地高校生を迎える準備をしている。一方日本では、京都大学でサイエンスワークショップが企画され、英国人高校生が日本の科学の最高峰の地で、京都大学の研究者と日本の高校生とともに実験を行う予定である。
2014年には英国人高校生を引き連れて東北の地でサイエンスワークショップを開催すべくその準備を始めている。