「真昼の暗闇とイースター」 本校チャプレン 與賀田光嗣

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、英国では3月23日より三週間の非常事態宣言が出され、先日、延長された。不要不急の外出は禁止。一日一度の散歩と、スーパーなどでの買い物、また社会にとって必要不可欠なキーワーカー(医療関係者、運送業者、小売業者など)の勤務のみが許可されている。違反すれば、警察の取り締まり対象となる。

4月19日、勤務先の立教英国学院に行くために久しぶりに外出した。私は日本聖公会の司祭であり、立教英国学院のチャプレン(礼拝堂付司祭)を務めている。本来、予定されていた入学始業礼拝を、オンライン配信するためだ。

チャペルでの配信前に小さなロウソクを20本ならべる。児童・生徒の居住する20カ国を覚え、祈りながら火を灯す。伝統的に祭壇のロウソクは会衆側から見て右側、十字架から見て左側から点火する。キリストの心臓から、世界に光がもたらされることの象徴である。

英国聖公会は、3月23日以前に、教会閉鎖、礼拝オンライン化の方針を打ち出した。宣言前日には、カンタベリー大主教が礼拝を配信。BBCラジオの朝8時の宗教番組でも中継された。とはいえ、礼拝中継は英国では珍しいものではない。全英各地の荘厳な聖堂から、BBCが行うクリスマス深夜礼拝の生中継は伝統的な風景だ。

一方、今、英国聖公会の司祭の多くは自宅キッチンから聖餐式を配信している。「主の食卓」が人々の日常と共にあることを示している。私もイースター聖餐式を自宅から勤務先の同僚に向けて配信した。聖餐のパンは手元になく、聖杯の代わりには普段使いのワイングラス。画面越しの同僚たちは、霊的陪餐に与った。

パンとぶどう酒を直接受けず、魂において与ることを「霊的陪餐」という。病床にあり何も口にすることができない状態、緊急事態に行われる形式だ。第二次世界大戦下、特高警察に捕えられた日本の司祭たちも獄中にて同様に行った。

Covid-19との戦いが、国家総力戦であることを痛感する。「戦時下」というものが、いかに私権を制限せざるを得ないものか。さらに、このような緊急事態は、社会的弱者を露わにする。

当初、欧州における最大の問題は感染ではなく、人種差別だった。差別を受けたマイノリティー(アジア人や他の移民)の多くは低所得層であり、労働者階級である。まず社会の分断が明らかとなった。しかし同時に、感染拡大に伴って、この社会が彼らによって支えられている現実を人々は目の当たりにした。

マジョリティが生きる明るい世界の中で、路地裏の陰が照らし出された。多くの人の「真昼の暗闇」が照らし出された。現在、それを照らす光は、彼らに対する感謝という良心の光に取って代わった。光は、暗闇の中で輝いている。

英国の冬は長く、暗闇と共にある。復活日が近づくと、太陽は眩しく、鳥たちは歌い、花々は彩り、硬くなった土や石で蓋をされた大地から、命の復活を感じさせられる。暗闇の後に光があることを、私たちは知っている。

復活日を前に、エリザベス女王は在位68年にして初のイースターメッセージを発信した。要約して紹介したい。

「様々な宗教には、光が暗闇に打ち勝つことを祝う祭りがあります。多くの場合、ロウソクを灯します。ロウソクの火はあらゆる文化、あらゆる信仰、あるいは信仰のない人にも、語りかけてくれるようです。死は本当に暗い。しかし、光と命ははるかに偉大です。復活日の生けるともし火が、未来への確かな道しるべとなりますように」

https://youtu.be/QMMSo4PB5Qk

注)「キリスト新聞社」で連載中の本校 與賀田チャプレンのコラムからの転載です。
http://www.kirishin.com/2020/04/28/42656/