終業礼拝で夏休みの読書感想文の優秀者、金賞2名と銀賞1名が表彰されました。その中から金賞を受賞した高等部2年生の作品をご紹介します。
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「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ。」
これは、この作品の主題となる文章のひとつです。
戦争が終わった昭和二十年、没落貴族となった主人公のかず子とその母は東京の家を売り、伊豆で暮らしていました。弟の直治も南国の戦地から帰ってきて、その弟を介して上原という男と知り合ったり、体調のすぐれない母親の看病などをしながら、かず子は穏やかな日々を過ごしていました。敗戦まで貴族として恵まれた生活をしてきたかず子でしたが、戦争を経験したこと、そして結核になってしまった母の死を前にして「私はこれから世間と争って行かなければならないのだ。」と確信します。
それから少しして、かず子の母親は亡くなってしまいます。私は最初、その後のかず子の行動にとても驚きました。母の死後、かず子は「いつまでも、悲しみに沈んではおれなかった。私には、是非とも、戦いとらねばならぬものがあった。」と、自身の恋を叶えるために、出会ってからずっと忘れられなかった上原のもとを訪ねて行くのです。愛する母親の死の悲しみにも浸っていられないほどのかず子の熱い思いが感じられる場面でしたが、もし私がこのときのかず子のような状況におかれたとしても、私なら母を失ったさみしさと悲しさで自分の恋愛のために行動する余裕はきっとないだろうと思いました。しかし読み返してみると、このときのかず子の心境は「私はいま、恋一つにすがらなければ、生きていけないのだ」とも記されており、かず子の上原への愛の大きさと、その思いにすがらなければ生きていけないほどに母親の死がショックだったこと、それだけかず子の母親への愛情が強かったことが現れている行動なのだと気づかされました。
恋と革命。それは、この作品の主人公であるかず子にとっての物語の主題なのだと思います。この作品の最後で、かず子はもう一つの革命を起こす決意をしています。お腹に宿った、不倫相手の上原との子供をたった一人で育てていくことです。かず子と上原はしだいに疎遠になってしまいました。それでもかず子は、恋しい人との子供を産み、シングルマザーとして育てていくことを決心するのです。自分の家族も生まれてくる赤ちゃんの父親もいない中、一人で子供を育てることは私には想像もつかないほど大変なことだと思います。しかし彼女は、離れていった上原を責めることはありませんでした。この優しさが、かず子の心の強さを物語っていると思いました。そしてこの恋と革命のために生きようとするかず子の強さが、社会に進出し奮闘する現代の女性たちにも通ずる、『斜陽』という作品に込められたメッセージなのだと思います。
(高等部2年 女子)