学年最後の行事、合唱コンクールが行われた。皆は略して「合唱コン(たまに合コン)」と呼ぶ。
日本の大体の学校にある行事だが、この学校の記念すべき第1回は2年前の3学期だった。
今年3回目の僕からしたら、ああまたかと思い、嫌だなあと正直思っていた。
「合唱コンなくなれ」という声が聞こえてくる。
その度に僕はそうだな、昨年などと変わらない行事なのだろう、と思う。
クラスの曲は『栄光の架け橋』に決まった。決めた理由も、誰が出した案かも誰も覚えていなかった。
ただ一つ覚えているのは、曲決めの話し合いは皆真剣だったことだ。
冬休みを経て、3学期になる。3学期が始まって3日程して練習が始まる。毎年のことだ。
3学期は何も大きな行事がないから作られた行事だと言うが、なんだかんだと忙しいのにと思い、
面倒だと思う。毎年のことだ。
練習が始まる。最初はまだ時間があると思い、適当にやる、僕らの俗に言う鉄板である。
そう思っていた矢先、いざ練習が始まってみると、3日後、いや、明日が本番であるかのような練習だった。
皆が真剣に音と楽譜に向き合っていた。皆の心の中に優勝という文字があるのがひと目でわかった。
嬉しかったというよりは、皆について行けるかという焦りの方が僕には大きかった。
僕は歌は好きだが、自信はない。だからこそ、僕は僕なりに不安を解消できるよう練習をした。
こんな不安は僕にとって初めてだった。
練習を重ね、本番前最後の週末が来る。その時にはもう僕の不安は無かった、と思う。
初めて別々のパートで練習していた僕たちが一緒になって歌えるときが来たのだ。
感想はまだ一週間前なのに良くできていると思っていた。僕と同じ考えの人は多かったはずだ。
でも、やはり不満はいっぱいあるようだった。その日から皆の色々な意見が出て、アレンジするようになった。僕はというと少し、いやかなり余裕が出てしまった。
練習時間にも、だらだらと歌っているだけだった。最悪だ。
本番の日を迎える。リハーサルには僕のやる気スイッチは入っていた。
そのせいか、リハーサルで歌う度に完成度は上がっていった。夜を迎える。
この時のために皆は3学期の初めから頑張ってきたのだ。
精一杯のことをしてきた、と言えば嘘になると僕は思う。けれども、頑張ってきたのは事実だ。
『栄光の架け橋』にある「いくつもの日々を越えてたどり着いた今がある」という所は僕にぴったりだ、
というのを誰かと話したことをステージ下で思い出した。
足が震えるくらい緊張していた。だが、不思議と歌っている最中は冷静だった。
表情だってきちんと作れた。いや、作れたというより、自然にできていた顔だった。
それくらい僕はこの歌に心を込めていた。
ラストのパート、クライマックスへ移る。今までにない最高の声量だった。驚いた。
団結していた。嬉しかった。
その後のブレイクで2組ほぼ全員が集まった。最高だったと皆が口々に言っていた。
そこから歌ったり、騒いだりしたが、とても楽しかった。
2組皆が団結していて、誰もが満足している顔が見られて、本当に良かった。
今まで何度も2組で良かったと思う瞬間はあったが、これほどまでに思ったことはなかった。
最高の思い出だった。
僕は思う。果たして結果はどうなのだろう。いや、どうでも良いのだ。
優勝なんて高2にあげてやる。僕らにはそんなものよりも、いくつもの日々を越えてたどり着いた今があるではないか。
(高等部1年生 男子)