高3の今年の行き先は、ちょっと毛色が違った。いつもなら、テムズ川沿いにそびえるビッグベン(時計塔の通称)で有名な、ゴシック建築の荘厳さあふれる国会議事堂だ。しかし今年はなんと『最高裁判所(The Supreme Court)』と『内閣戦時執務室(Cabinet War Rooms)』だった。
裁判所なんて入ったことがあるだろうか?
裁判傍聴だって経験がない人の方が多いだろう。しかも最高裁判所。日本の最高裁判所だって、どこにあるかパッと思いつかない。一国の最高裁判所に入れる、と言われると、「おおっ」と気持ちが盛り上がる。アウティングの10月7日に行われる審理は、その名も『スーパーのマークス&スペンサー VS BNPという会社 の賃貸料の返還をめぐる訴訟』。見学してみた体験に基づいて、”イギリスの最高裁判所の三大トリビア”を独自に作ってみた。
【その1】 英国の最高裁判所は2009年に設置された。
【その2】 裁判官はいかめしい黒ガウンをまとい、巻き毛のカツラを真面目にかぶるらしい
【その3】 審理中は裁判官も弁護士(?)も意外に声が小さい
傍聴した審理では、モーツァルト風の裁判官判事ではなかったけれど、声が小さいのにはマイッタマイッタ…。ただでさえ、外国語をリスニング、おまけに訴訟の英語。聞こえにくいから、余計に分かりにくいもの。
長い審理だったから、結局最後まで聞けなかったけれど、最高裁に持ち込まれるまで、一体どれくらい審理が続いていたんだろう?と、ふと思った。よく考えたら、今日の審理で決着したんだろうか?ひょっとしたら長く長く続く審理の1日を聞いたのかもしれない。
それにしても『市民による民主的な政治』の象徴の一つが『三権分立』だというはずなのに、最高裁判所の設置がたった5年ほど前のこと。英国では、議会が最高裁判所を兼ねていたと聞いたけれど、この長い間、立法・司法権の兼務で法が乱れることはなかったのか?それが現代まで続いていたイギリスにびっくりだ。
もう一つのチョイスのCabinet War Rooms、第二次世界大戦中の戦略本部である。しかも地下に作られた戦略本部。第二次世界大戦といえば、ドイツがヨーロッパ一帯を占領していたから、この地下基地はヨーロッパの水際の砦ということだ。ますます秘密めいた空気がぷんぷんするではないか。
ではこちらも、お勧めの【高3生コメントによる 三大みどころ】を紹介する。
【その1 なんと100近くもの部屋がある広さ しかし閉塞感が強い 】
“予想以上に広かったが、地下ということもあり、暗くて空気がこもっていて、チャーチルと同じ空気を吸っているかもしれないと思うと感動”
“このような窮屈なところで、みな文句ひとつ言わず頑張っていたのかと思ったが、ガイダンスでチャーチル首相もここが大嫌いだったということを聞いて、少し安心した”
“…外の新鮮な空気を吸えずに、働きづめであった当時の人のことを考えると、やはり戦時中のつらさを思い知らされました…”
【その2 他の士官に比べると、ちょっと豪華なチャーチルの部屋】
執務机があって、ベッドも備え付けられている、少し広い部屋がチャーチルの部屋だった。
“ベッドが(ちょっと)豪華。チャーチルが一晩中寝ることができた日は、3回しかなかったらしい”
“…チャーチルのためのキッチンやダイニング、寝室が、私の部屋よりも小さくて、首相でもこのくらいの部屋に住んでいたんだと、戦争の時の大変さが分かった気がしました…”
“首相ならば豪華な部屋で暮らしてもいい身分なのに、キッチンはうちの家よりも小さいし、部屋も廊下と思うほど。窓もないし、薄暗いし、居心地悪そうだった…”
【その3 電話】
“形はとてもシンプルだった電話なのですが、色が白・青・赤・緑などがあって、目にとまるものだった”
電話線はさすがに、天井からコードが垂れ下がっている造り。
アメリカのルーズベルト大統領と直接話せる電話もあった。もちろん盗聴防止機能つき。戦時中の慎重さがしのばれる。
Cabinet War Roomsは、最高裁判所と同じく、国会議事堂のすぐそばにある。つまり官庁街にあって、今はとても瀟洒で閑静な一角だ。戦争時代の遺産が隠れているとは想像しにくい。
“本部の真上を襲撃されても大丈夫なのか疑問でした。皆ひとたまりもなく死んでしまうんじゃないかと思ったし、地震がある日本ではできないことだなと思いました”
“日本も先日内閣の地下室が数十年ぶりに開かれていたので、朽ちた状態を修復し、平和の尊さを伝える博物館として一般公開してほしい”
様々な地域を含む、ヨーロッパの大戦に臨んだ人々はもうそこにはいないが、その空間には、ここを歩き、座り、生活していた人々の息づかいがあふれていた。
今年は終戦から70年。最高裁判所も地下の内閣戦時執務室も、今の私たちの幸せな生活を様々に思い、振り返らせてくれる、実に良いところだった。今度は時間を気にせず、じっくりと審理をきいて意見をかわし、今は消えつつある戦争の記憶をもっと学んでおきたい。