弱さを受け入れる―感謝〈林 和広 チャプレン〉

弱さを受け入れる―感謝〈林 和広 チャプレン〉
 昨年の夏休み頃から生じていた腰と膝の痛みが悪化、二学期準備会中に立ち上がりが困難になり、約3週間の自宅療養を余儀なくされました。MRI診断は腰椎椎間板ヘルニアでした。専門医からは立ち上がりも歩行も可能となったので特別な治療は無いと言われたのですが、念のため、学期中は学院の職員より紹介して頂いた鍼灸師の治療を受けていました。学期末頃には痛みもかなり改善され、冬期休暇も日本で過ごすことが出来たのですが、一月に入り、痛みが再発、再び歩行困難な状態となりました。約一ヶ月間、鎮痛剤や鍼治療、整体等の治療を行なってきましたが、痛みは改善されず、復帰の目処が全くたたないこともあり、日本で治療を受ける為に早期帰国することになりました。任期は今年三月末をもって終了予定でありましたが、最後まで務めを全うすることが出来ず、申し訳ない気持ちでいます。現在、日本で治療を受けながら過ごしており、この原稿を書いています。
 小さな頃から始めたテニスの影響で十六歳の頃に腰を痛めて以来、長い間腰痛とは付き合ってきましたが、長く寝込むようなことはなく、リハビリ、トレーニング等で何とかその状態をしのいできました。今回、思うように動けず自宅で一人横になっている自分を受け入れることに時間がかかりました。自己管理が足りなかったのだ!と自分を責め、とにかく早く復帰しなければならない!と自分を追い立てれば追い立てるほど思うように痛みが消えず、動けない自分の状況が腹立たしくて仕方がありませんでした。学院で生徒たちには「ありのままでいい」、「弱さを持っている自分を受け入れよう」と語っていながら今の状態に苛立つ自分、自宅療養中、色々な方々からの支えに励まされてきましたが、同時に他者に迷惑をかけてしまっていることを情けなく思い、素直に他者からの支えを受け入れられない自分がいました。ありのままでいる、無力さ、弱さを受け入れることの難しさを感じました。しかし、時が経つと共に少しずつ自分の心に変化が訪れました。帰国の際には先生方からの暖かい言葉と支え、一人ひとりの生徒たちからのメッセージを頂きました。とても励まされました。学院のご配慮により、帰国便の車椅子等のサポートを受け、英国から神戸に無事に戻ることが出来ましたが、帰路においても空港の係員や添乗員の方々からの暖かい支えがありました。改めて自分一人では何も出来ないことに気づかされ、そして他者からの支えに素直に感謝して受け取ることの大切さを知りました。
 聖書の中に登場する人物の中に聖パウロという人がいます。情熱的で学識、行動力があり、教会が誕生して間もない頃にキリスト教の宣教に大きく貢献した人ですが、聖書に収集されている聖パウロの手紙(コリント二)に、彼には「一つのとげ」が与えられたと記されています。肉体的な病であったのか、或は生きる上での何かの困難であったかは定かではありませんがパウロにとっては痛みを伴うものでありました。
パウロはそれを「思い上がることのないように」与えられたものと語っており、そのことを受け入れているように見えますが、その後すぐに三度、神様にそのとげが消え去るように願ったとあります。受け入れようとする心と可能ならばそれが離れ去り自由に楽になりたいという心がぶつかり合っています。分かっているけど辛いんだ、もっとより良くなりたいんだと願う気持ちがあります。そう願う聖パウロに神様はこう答えます。「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ」と。
 厳しい言葉のように聞こえますが、今の私には大きな慰めです。思うようにならない現実の中でジタバタとしているときには周りが見えず、何も気づかずにいるけども、ゆっくりと自分を見つめ、そして、周りを見渡すとき、そこにはそのときに必要な支えが与えられていることに気づきます。自分の思い描いた通りにいかず、無力感を感じることがあってもそこに支えがある。何の問題もなく満ち足りているときには見えないものが見えてきます。これまでの自分の生きてきた道を振り返るとそこには多くの支え、助けがあったこと、そして、今も種々の支え、助けを受けている事に気づかされます。自分の思い通りにいかず、足止めを食うこと、遠回りしなければならない状況に置かれることがあっても、きっとそこには何か意味があり、そして、そこで必要な支えがあることを信じて歩んでいくことを大事にしたいと思いますし、そのことを本学院の生徒たちにお伝えしたいと思います。感謝の心があるところには必ず新たな道が示され、開かれていく。そして、同じような痛みを持つ人々の気持ちに寄り添うことができる。
 三年間本当に有り難う御座いました。立教英国学院での三年間の経験はこれからの自分の人生においても大きな糧となりました。本学院を今春卒業する卒業生、そして、在学する生徒、教員の方々、関係者一人一人の上に神様の祝福がありますように心よりお祈りしています。