オープンデーから三日たった教室は、机と椅子だけの簡素な部屋へと戻っていた。しかし、注意してよく見てみると、所々に剥がされていないテープや、掃除機で吸い取れなかった切れ端があることに気付かされる。こういった時、普段なら自然と手を伸ばして捨ててしまうのだが、どうしても頭の中で映画の様にたどたどしく流れる、懐かしい思い出が僕を邪魔するのだ。目を閉じ、自分の記憶に浮かぶ最初、つまり準備期間の一日目から思い返す。
椅子や机が退かされた教室は只々、広々としていて一体、何を何処から始めたら良いのか全く見当がつかなかった。正直、自分に周りから求められている物が出来るのか、不安だった。今年になり、人数が一気に増えた中学三年は去年よりも一人あたりの仕事は減ったものの、昨年以上の質を要求されている。そのため、去年看板、背景や模型と仕事が山ほどあり多忙だった僕も、模型と七日間ずっとにらめっこするはめになったのだ。そんな僕を初めに待っていたのは白紙の設計図だった。模型を作るのに木材がどれ程必要なのか明確にするためにはどうしても苦手な設計図を描かなければいけない。それ以外にも使用する素材や、模型の大きさや色、土台の固定法などといった解決すべき問題が沢山ある。準備期間中はまさに自分との戦いだった。他の人に代わって欲しいとか、教室へ行きたくないとか、そんな思いで頭の中がグチャグチャに掻き混ぜられていく。なによりも皆からの期待が大きなプレッシャーとなった。
僕が一人で頭を抱えている。そんな時、一緒に悩んでくれるクラスメイトがいた。難しい事も平気な顔で手伝ってくれるクラスメイトがいた。それが僕にとってどれ程大きな救いだっただろうか。彼らにとっては当たり前の事かもしれないが、その行動の一つ一つ、言葉の一単語までもが僕を支えてくれた。前へ押してくれた。こうして何とか完成した模型は少し不恰好で、首が短いと指摘されたりもしたが、それはそれで何処かしっくりとくる。中々に愛着を感じる物だった。
オープンデーが終わり、教室は沈黙に覆われている。そんな中で僕はふと視界の隅に剥がされていないままのテープを見つけた。いつもなら捨てられるゴミを僕は捨てられない。胸の奥から何か温かいものが込み上げてくる。僕はゆっくりと視線を白板の上に堂々と飾られている紙へと向けながら、目を閉じて思い出していく。白と黒だけの一位の表彰状よりもこの思い出の方が鮮やかに感じた。僕にはこのゴミを拾う事が出来ない。どうしてもこの残り香が消えてしまいそうで怖いのだ。
(中学部3年生 男子)