2004年より始まった日英高校生のためのサイエンスワークショップは今年で10周年を迎える。今年もケンブリッジ大学と立教英国学院で7月17日から27日までの日程でクリフトン科学トラスト、アルボーン博士の主催でサイエンスワークショップが開催された。2010年から始まったケンブリッジ大学でのワークショップは今年5年目を迎え、熱心に指導する先生方のお陰で10周年に相応しい充実したものとなった。今年は京都滋賀地域でスーパーサイエンス・ハイスクールに指定されている4校の学校の生徒教員21名が来英した。本校からも4名の高校2年生が参加し、英国側でのホスト校として、日本の学校の生徒の受け入れと英国現地校の生徒との橋渡しとして活躍した。
例年のように日本人高校生はプレワークショップとして本校に滞在し、3日間のロンドンでの研修に参加した。ロンドン研修では、日本の近代化の原点とも言えるUCL(ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン)を訪問し、UCL教授である大沼先生にお話を伺い、17世紀に設立された世界で最も古い科学学術協会Royal Society(王立協会)への訪問、19世紀に電気化学の分野で先駆的な役割を果たしたファラデーのRoyal Institution(王立研究所)の訪問等を行った。ケンブリッジ大学で先進的な科学研究に触れることも大切な経験ではあるが、これらの近代化の原点、科学研究の原点である大学や学術協会を訪問することにより、科学が目的とするもの、科学が人類に貢献してきたことを再確認することは次世代を担う高校生にとっての一つの原点となることを願っている。本校の生徒にとっては日頃からアウティングで行き慣れたロンドンでもあり、その経験を活かし、積極的に日本人高校生の先頭となってロンドンを案内し、ホスト役として十分に活躍したことばかりでなく、改めて英国ロンドンの魅力を感じた研修でもあった。
7月21日から始まったケンブリッジでのサイエンスワークショップでは日本人高校生24名、英国人高校生24名が参加した。クリフトン科学トラストのアルボーン先生とケンブリッジ大学の研究者によって、7つの魅力的なプロジェクトが日英の高校生のために用意された。
体内での薬のデリバリーシステムの化学研究
ショウジョウバエを使った細胞分裂の観察
材料科学の研究(金属の融解から破壊まで)
自然放射線と原子力
工学におけるセンサー
タービンエンジンの設計研究
サイエンスコミュニケーション
いずれのプロジェクトも、社会が抱える問題の解決に科学研究が大切な役割を果たしていることを研究室の一員として体験すること、質問することにより既成の科学知識への挑戦をすること、そして科学が国際交流に大切な役割を果たしていることを体験できるよう配慮されている。
最終日には各チームに15分間の時間が与えられ、期間中に学んだこと、経験したことをPublic Presentationとして、大学研究者、一般の方々に説明する機会がある。参加した高校生は積極的に質問することが求められるが、英国人高校生からの質問に加えて、今年は日本人高校生からも積極的に質問する姿が見られたことは、次世代のグローバル人材の育成も考えている本ワークショップ主催者としては大変頼もしく感じている。
サイエンスワークショップの最後は、ヘンリー8世により設立されたトリニティー・カレッジでのディナーである。本ワークショップの良き理解者であり、生徒のプレゼンテーションにも参加しコメントをして頂いた、元トリニティー・カレッジ学長でもあり、王立協会のプレジデントでもあった宇宙物理学者のリース卿がディナーのホスト役をつとめる。今年は英国人高校生と日本人高校生がペアとなり、カレッジの伝統であるラテン語での食前の感謝にも挑戦をした。ニュートン(万有引力)や、ラザフォード(原子核)、トムソン(電子)、ブラッグ(X線結晶回析)、ボーア(量子論)らのノーベル賞受賞者が食事をし、議論をしたこの食堂は、正にワークショップの最後を飾る場所に相応しく、感無量の思いでディナーを楽しむことができた。