在英国日本国大使館公使・総領事 宇山 秀樹様
小学部6年生・中学部3年生・高等部3年生の皆さん、本日はご卒業誠におめでとうございます。普段離れていてもお子様を温かく支えてこられた保護者の皆様、手厚い指導で子供達を卒業まで導いてこられた先生方、その他関係者の方々にも、心からお祝いを申し上げます。
卒業生の皆さんは、ご家族から離れた全寮制の生活に慣れるまでは寂しい思いもし、いろいろ苦労をしたことでしょう。でも、英国の美しい田園風景に囲まれたこの広大なキャンパス、素晴らしい環境の中で、大家族のような寮生活を送りながら、厳しくものびのびとした教育を受けて、たぶん、ご家族も驚くほどたくましく成長したのではないかと思います。
今日卒業していく皆さんが、立教英国学院で学び、身につけてきたことを基礎として、グローバルな視点を持って、国際社会の中で日本の未来を担っていく人材となることを期待しています。こんなことを言うと、荷が重いと思うかもしれませんが、皆さんは、そのための素養をここ立教英国学院で身につけてきたことと信じています。
皆さんの将来に大きな期待を込めて、今後心がけてもらいたいことを3つ申し上げたいと思います。
1つ目は、「自分の頭で考える」ということです。そんなこと当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、様々な情報の溢れる現代社会では、目に入った情報を受け身で無批判に受け入れがちです。インターネットやスマホはとても便利ですが、ソーシャルメディアなどネット空間には偽情報や根拠の不確かな情報も飛び交っています。そういう中で、幅広い教養を身につけながら、疑問を持ったり批判的に考えたりすることを意識的に行って、自分の頭で考え、何が真実・事実なのかを見抜くことのできる目を養うことがとても重要です。そのためには、好奇心を広く持って、文学でも歴史書でも、良い本を沢山読むこと、それから、できれば傾向の違う複数の新聞を読むことをお勧めします。1つの情報を鵜呑みにしないで、疑問を持ったら、複数のソースで調べてみる習慣を身につけてください。そうして自分の頭で考える力を鍛えることは、皆さんが将来どのような道に進んでも必ず役に立つはずです。
2つ目に、「失敗を恐れず、あきらめないでチャレンジすること」です。これから先の人生、楽しいことや成功することばかりではなく、壁にぶつかって悩むこと、失敗することもいろいろあるでしょう。でも、「自分はできる」と信じてチャレンジし、努力して逆境を乗り越えることで、人間は強くなれます。ついこの間終わった平昌冬季オリンピック、英国ではフィギュアスケートはあまりTVで放送されませんでしたが、羽生結弦選手が男子シングルで66年ぶりとなるオリンピック2連覇の偉業を達成したことは皆さんも知っていますよね。羽生選手は去年11月練習中に右足首に大きなけがをして、オリンピックの直前までジャンプの練習もできないような大ピンチに陥りました。「スケートができなくなるんじゃないかと思う日々が続いた」そうです。しかし、本番では痛み止めを飲みながら素晴らしい演技をして、見事金メダルを獲得しました。金メダルが決まった直後に、彼は、「自分に勝てた」と言いました。けがに苦しみながら地道な努力を重ねて、自分との戦いに勝ったのです。もちろん羽生選手のような超人的な能力は並みの人間に真似できるものではありませんが、何があっても負けない精神力を見習うことは誰にでも可能です。私も、若い頃大学受験に失敗したり、外務省に入るための試験に2度落ちたりしましたし、社会人になってからも失敗してへこむことや難しい状況に直面することがしょっちゅうありますが、そのたびに「負けてたまるか」と自分を奮いたたせて、何とか乗り切ってきました。皆さんも、これから先どんな困難に直面しても、挫けないで努力し、チャレンジしていく精神的な強さを是非身につけていってください。
3つ目に、「日本人としてのアイデンティティと誇りを持ちながら、異なる文化や価値観を理解し尊重すること」です。最近、世界のいろいろな国で自国ファースト、自分の国さえ良ければいいという考え方が広がっていますが、そのような風潮は他の国や民族に対する偏見や排除に結びついて、争いの元になりかねません。多様性を大事にする寛容な心を持つことが、益々重要になっていると考えます。皆さんは、立教英国学院で学ぶ中で、ローカルコミュニティとの様々な交流、ホームステイ、短期交換留学等を通じて、英国の文化や習慣、英国人の考え方、特に、多様性を大切にする英国の懐の深さに触れてきたことと思います。同時に、日本の優れた点、世界に誇れる美点を再発見することもあったのではないかと思います。それは、日本国内ではなかなかできない貴重な経験です。皆さんが、その貴重な経験に基づいて、これから先、日本の良いところ、優れた面を理解し発信しつつ、異文化や異なる価値観を尊重できる国際人に成長していくことを願っています。
最後に、皆さんが立教英国学院で得たかけがえのない経験を活かしながら、将来、日本と英国の架け橋として、また、世界に通用する国際人として大きく羽ばたいていくように心からお祈りして、私からの祝辞とさせていただきます。