今学期、高校2年生の古文の授業では、「贈る」をテーマに百人一首の中からとっておきの一首を選び、誰かに「贈る」ことからはじまりました。合わせて「うしろめたさの人類学(松村圭一郎)」の冒頭部を読み、「交換」と「贈与」のちがいについても考えました。「贈る」行為には、見返りを求めないことや選ぶ/受け取るまでに物語性があること、また相手を想うからこそ緊張感が伴うなど、身近な経験に基づいた様々な意見が寄せられました。
5・7・5・7・7からなる形式に合わせてメッセージを婉曲的に伝えるという和歌の手法には、現代のテキストメッセージに比べて「贈る」性質が色濃くあらわれているとも考えます。日常のなかにも「言葉を贈る」コミュニケーションを取り入れたり、季節や「音」にちなんだ表現技巧に興味を持ってくれる生徒が少しでも増えてくれると嬉しいです。
今回は、生徒作品を2回に分けてご紹介します。
★選んだ和歌:55・瀧の音は 絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
> あの瀧の音が絶えて久しいが、瀧の名だけは世に流れて今も聞こえているところだ。
贈る相手:今は一緒に住んでいない兄へ
> 東京で一人暮らしをしている兄に、がんばっていることは自分に伝わっているよ、ということをこの歌を通して伝えたい。
★選んだ和歌:55・瀧の音は 絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
> 滝の音は聞こえなくなって長い時間が経ったが、その評判は今となっても知れ渡っている。
贈る相手:今の自分
>人間の寿命は有限である。一生の間に色々なことをして、後世に残るような人間になりたい。この立教生活にも同じことがいえるだろう。最後の一年間を有意義に過ごしたい。
★選んだ和歌:77・瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の われても末に逢わみとぞ思ふ
> 川の瀬が速いので、岩にせきとめられる急流が真っ二つに分かれても、いつかはまた合流するように愛しい人と別れてもまたいつか逢いたいと思う。
贈る相手:中学時代の親友
> 中学の時は同じルートを歩んでいても、高校生になり、全く違った道を歩んでいる私たち。高校時代はこの川のようにあっという間に過ぎていくが、私たちの関係性は昔と変わらず、大学生になり、落ち着いたらまた一緒に過ごしたい、という気持ちをこめて選びました。
★選んだ和歌:84・ながらへば またこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき
> つらいと思っていたあの頃も、今となっては恋しく思うのです。今つらいと思っていることも、いつかは恋しく思えるものだよ。
贈る相手:受験生の弟へ
> いまはつらいかもしれないけれど、大きくなったら懐かしく感じられるようになるから、今はできることを精一杯がんばって!という気持ちをこの和歌に込めて送りたい。
★選んだ和歌:99・人をもし 人を恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑに物思ふ身は
> この世の中をつまらないと思う私は、時に人を愛おしく思い、時に人を恨めしく思う。
贈る相手:立教生
> 立教にいて、友達と一緒に長い時間を過ごすことで時に彼らをうっとうしく思うこともある。しかし、長期休暇に入れば、そんな友達のことを愛おしく思うことが多くある。特に思春期は、この世の中をつまらないと思うこともあるけれど、強く生きていこう!