ケンブリッジ大学でのワークショップを前に、日本側参加者は立教英国学院に宿泊し、7月22日より本校でロンドン研修が行われた。
世界で最初に設立された学術団体である王立協会での研修、科学技術が台頭してきた18世紀に初めて科学者と一般市民との科学的対話を実現させた王立研究所での研修に加え、今回特に東北被災地域からの参加者のために、ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ(UCL London)での研修が行われた。
現在UCLで先端研究者として癌発生のメカニズムを研究しているのが大沼教授である。先生は東日本大震災後の3月22日に直ちに、UCLで東日本大震災のシンポジウムを開き、被災地域の現状を訴えている。6月にウエストミンスター寺院で行われた東日本大震災追悼礼拝でも、証言者としてTestimony(証言)をし、被災地域の現状を訴え、そして避難先で亡くなられたご尊父の故郷への慕情を参加者の方々にお話になられた。先生ご自身が福島高校、東北大学の出身であることもあり、今回の被災地域の高校を招待することについては大変ご支援をいただいている。更に日本からの参加高校生に、世界の中で孤立している日本の状況、若者の内向思考、ガラパゴス化、日本の再鎖国化の現状からの脱却を強く訴え、ご自身の経験から広い視野を持って海外に挑戦する姿勢を強く生徒に説かれる姿は印象的であった。
幕末から明治期にUCLで学んだ若者が日本の近代化の中心となっていたことを考えると、近代化の思想の原点がここUCLにあると言っても言い過ぎではない。明治期の新たな日本の創造のために若いリーダーが学んだこの場所を、東日本大震災後の日本の復興と新たな創造の担い手である高校生が共有することで、100年以上も前の日本の先駆者たちが将来に掛けた夢と意気込みを感じ取っていただければと期待する。
ロンドン大学UCL ユニバーシティーカレッジ
UCLは英国タイムス社による世界大学ランキングでは2009年に第4位を占める研究総合大学である。21名のノーベル賞受賞者も輩出している。1826年の創立であるが、オックスフォード、ケンブリッジ大学とは一線を画する。両大学が男性、英国国教会信徒、貴族階層者のための大学であったのに対し、最大多数の最大幸福で知られるベンサムの考えに基づき、大学教育の大衆化が強く唱えられ、すべての人に開かれた大学を目指して設立された。英国で初めて平等な基準によって女性を受け入れ、宗教、政治的思想、人種による入学差別を撤廃した大学として知られる。このような背景の下に、日本から鎖国時代に初めて留学生を受け入れた大学として日本との関係は非常に深い。
1885年に長州藩より、後に長州ファイブと呼ばれる若い侍5名がこのUCLに初めて留学をした。1887年には薩摩藩より20名の若者がこの大学で学んでいる。長州藩より伊藤博文(初代内閣総理大臣)、井上馨(初代外務大臣)、遠藤勤助(造幣の父)、山尾庸三(工学の父、東京大学工学部設立)、井上勝(鉄道の父)、そして薩摩藩より森有礼(初代文部大臣、一橋大学創立)、寺島宗則(電気通信の父、4代外務大臣)、五代友厚(大阪商工業の父)らがここUCLで学び、帰国後日本の近代国家の基礎を築いたとされている。