立教歳時記 連載第7回 イワツバメ (House Martin)

立教歳時記 連載第7回 イワツバメ (House Martin)
夏を告げる鳥 イワツバメ アフリカより飛来
五月中旬、校内は色とりどりの花々が一斉に咲き始める。北国の花で知られるリラの紫、白色の花々が芳醇な香りと共に、初夏の訪れを告げる。イギリスではライラックと呼ばれ、その花の色の通り、青紫色を示す色でもある。
リラの花だけでなく、赤いシャクヤクの花、シャクナゲの赤、白、ピンク色の花々、サンザシの小さな白い花々、姫リンゴの白とピンクの花が一斉に咲き乱れる。
校内の池ではバン(クイナ)の雛達が一人立ちし、マガモの子供達が母鳥の後を追いかける頃、立教は遠くアフリカから旅立ってきたイワツバメを迎える。日本語訳はイワツバメであるが、イギリスではHouse Martinと呼ばれ、イエツバメと訳したほうが良さそうだ。日本のツバメと比べると尾が短い。毎年五月二十日前後、気温の上昇を予知するかのように、本館周辺を飛び回るイワツバメの姿を目にする。到着すると、すぐに巣作りに励む。どこからともなく、泥を運んできては本館軒下の壁に擦り付けてまた飛び去っていく。空中で飛びながら虫を捕食し、枝に休んでいる姿は見たことがない。
常に飛び続けている姿は、イギリス人には働き者として、また空中での俊敏な旋回は戦いにおける軍の動きを連想させる。このためツバメの意匠は、絶えることのない知識の探求、労働、忍耐のシンボルとして中世の頃より使われている。エドワード黒太子、リチャード2世の紋章、さらにオックスフォード大学ユニバーシティーカレッジ、ウエストミンスタースクールの紋章としても使われている。ここサセックス州のシンボルにもツバメの姿が描かれている。
 昨年は本館軒下に十五個の巣を確認できたが、今年はまだ八組のイワツバメ達の巣作りを確認するにとどまっている。ツバメ達が本館の周囲を高く低く飛び回る頃、イギリスは夏を迎える。