中学部3年生では、教科書中の井上ひさしの作品である「握手」の学習後、ことばやしぐさ、行動などを通して自分の最も身近な人物Xについて描写する「Xの肖像」という作文を書きました。
みなさんはこれらの描写から、Xとはどんな人物を思い浮かべるのでしょうか。
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「Xの肖像」
とっても暑い日の事だった。友達との帰り道、会話も聞こえないくらいにうるさいセミの声。立ち止まっていてもただダラダラと流れ出る額の汗。太陽に全体力を吸い取られているようだった。
やっと家にたどりつくと、庭の草むしりをしてくれている人がいた。Xだった。ぼくは心配になり声をかけようと思ったが、ぼくより早く、
「おかえりなさい」
とゆっくり口が動いた。『こんな暑い日に何してんだよ』と、内心思いながらも、たまにこうして現れるXが大好きだ。だからXを見たとたんに暑いことなんて忘れて、
「俺も手伝おうか?」
って聞いたらXは目を細くしてニコッと笑い、
「なら、一緒に遊ばないか」
Xはおもむろにポケットに手を入れ、花札を取り出した。
花札を配るXの顔は、子供のような、直球専門の、負けず嫌いな性格に変わっていく。目の奥の方がきらりと光って、子供であろうが手かげんは絶対しないぞという気合がひしひしと伝わってくる。一瞬一瞬が真剣勝負だ。
結果は惨敗だった。
「まだまだ若いモンには負けませんよ。」
なんて言ってニコニコ笑っている。悔しいが多分ずっと勝てないだろうな、と思う。そしてXは、遊んでくれた後いつも、
「学校は楽しいかい?」
「友達とは仲良くやっているかい?」
と聞いてくる。
「楽しいよ」
と一言だけ言うと、また、子供みたいな顔でニコニコ笑って
「それじゃあ、また来るね」
そう言って帰ってしまう。Xが帰ってしまった後の家はなんだかとっても寂しい。ドアをいっぱいに開けて、
「また来てね!」
と叫ぶと、またニコニコ笑った。
(中学部3年 男子)