2学期第3週目、週に4回あるイギリス人による英会話の授業で新しい試みが始まったーー「ドラマ」の授業。
イギリスでは小/中学校からひとつの授業科目として存在する「ドラマ」。日本人には馴染みのない科目であるが、それを「英会話」の授業に取り込もうというわけだ。年度当初から準備が始まり、まずはプロの指導者を招いて全校生徒を対象にワークショップをすることになった。
9月26日、このドラマワークショップのために特別時間割が組まれた。高3以外の生徒全員が学年ごとに分かれて60分のワークショップを体験するためだ。場所は剣道場。机と椅子が並ぶ教室ではなく、何もない広い空間が選ばれた。指導をするインストラクターは1人。これに本校のEC教員がアシスタントとして加わった。これから一体どんなことが行われるのか興味津々だった。
簡単な挨拶の後いきなり始まったのは「体を使った自己紹介」。英語は一切使わない。自分の名前を言いながら、自分で考えた動きを使って自分を表現する。そしてその後は全員でその動きを真似ながら友達の名前をリピートする。一人一人順番にやらなければならないことが分かった瞬間どよめきの声が上がる。
“Please be quiet! You mustn’t speak.”
ちょっと厳しめにインストラクターが促すと、皆それぞれ自分の動きを考え始める。1人、又1人と照れくさそうに自己紹介が続き、その度に大きな笑いが起こり、そしてまた “Please be quiet.” が繰り返された。もちろん、”Well done! That’s excellent!” という励ましのコメントも各生徒に送られ、彼らの自己表現も順番が進む毎に生き生きと大胆になっていくのが不思議なくらいだった。
1周回って全員の自己紹介が終わる頃には生徒たちの緊張も解れてくる。次のタスクは「何かをしている」ジェスチャー。これも体で表現する。”What are you doing?”と問いかけ、”I’m reading a book.” 等と簡単に答えるわけだが、伝える道具は「口」ではなくむしろ「体」。照れながらも、ためらわずに何とかジェスチャーで次の人に伝えようとする気持ちが、もう既にこのワークショップの成功を物語っていた。
タスクは少しずつ高度になっていく。相変わらず「英語」はあまり使わない。もちろんインストラクターの指導は全て英語だが、これはリスニングの練習でもなかった。生徒たちが聞いているのは「英語」ではなく、インストラクターの次なる「指示」だった。
いくつかのタスクが終わると今度は5、6人のグループに分かれて団体戦。決められた時間の中で与えられたテーマについて、体を使った「静止画」をグループ全員が参加して作る。「ロンドン」「海」「教室」… と脈絡なく与えられるテーマを即座に話し合って形にしていく。
” Five…. Four…. Three…. Two…. One…. FREEZE!!”
ああでもない、こうでもないとポーズを考えながらガヤガヤと賑やかだった剣道場が一瞬にして静まり返る。インストラクターがそれぞれのグループの前をゆっくりと歩きながら観察していく。静止した生徒たちの顔はニコニコ顔。すっかりECの授業であることを忘れている。「ドラマ」の授業という意識ももはやなかったかもしれない。
“OK! It was excellent! All did very well! Now you may go.”
1時間のワークショップはあっと言う間に終わった。英会話の授業枠に入れたこの「ドラマ」のワークショップで、生徒たちはほとんど英語を使わなかった。ひたすら体で表現して伝えた。照れながらもニコニコ笑顔でジェスチャーをした。
ワークショップが終わるとインストラクターとECの先生方が話をしていた。
「あんなにリラックスした生徒を授業で見たのは初めて。」
「日本人はみんな照れ屋さんだと思っていたけど、そんなことないわね。」
日本人英語教員がインストラクターに質問する。
「今日は英語をほとんど使わなかったけれど… ドラマの授業と言うのはこういう感じなんですか?」
「自分を素直に表現するのがまず大事なんですよ。今日は最初の1時間ですからね。英語を使い始めるのはもう少し先のステージ。でもみんなよくやっていたと思うわ。」
「これからは私達がECの授業でこの続きをやっていけそうな気がしてきました。」とECヘッドのMrs Sharp。
「生徒たちにこんな可能性があると分かって正直ビックリ。これをきっかけに生徒たちがもっと自信をもって英語を話せるような方向にもっていけると確信したわ。」
ECの先生方も「照れ屋さん」の生徒たちに「生きた英語」を教える新しい可能性を見いだしたようだった。Mrs Sharpによると、毎週4回の授業のうち1回をこのようなドラマの授業にあてていく予定だという。3学期にはステージの上で生徒たちが生き生きとした英語で演技するのが見られるかもしれない。ECの授業がますます楽しみになってきた。