2012年度始業礼拝 校長式辞

2012年度始業礼拝 校長式辞
新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして在校生諸君、進学おめでとう。
この学校は1972年、初代校長をつとめた縣康(あがたやすし)先生によって創設されました。世界で最初に海外にできた私立の全寮制日本人学校です。
このあと新入生の皆さんにお渡しする胸のバッジには、この1972の数字が記されています。今年は2012年、ちょうどこの4月で創立40周年を迎えました。今学期の最後、7月7日には創立記念礼拝を行なうことになっています。
40年前、本校がスタートしたときには、生徒は小学生19名のみ、寮も教室も食堂もすべて、現在女子寮になっている本館だけで成り立っていました。今、本館の前には、創設者縣先生のレリーフが立っています。今から40年前の時代というと、日本がまだバブルの時代を迎えるはるか前、日本人がやっと海外に出て活躍を始めたばかり、そういう時代に、イギリスに日本人のための学校を創るという、おそらく当時誰も考えなかったであろうことを実現させてしまった、そのことに驚嘆の念を覚えます。同時に、70年代、80年代へと続いていく、日本人の海外進出という時代の要請に対する先見性に驚きます。それから40年、わずか19名でのスタートから、今ではもう2000名以上の校友が世界中で活躍するまでになりました。
さて今年、2012年、今の時代はどうでしょうか。先日、バークレイ銀行で投資部門のマネージャーをしているある卒業生が、ロンドン出張の合間を縫って学校を訪問してくれました。そのときの彼の話です。日本は今、不況、不況だと言われているが、10年後にはもっと大変なことになっているかもしれない。日本は長い間ずっと根本的な問題の解決をすべて先送りにして、その場限りで済ませてきた。その為に国の借金もどんどん膨らみ続けている。分かっている人は、あぶないことにとっくに気付いている。いつか近い将来、皆が気付くときがくる。その時は大変なことになるかもしれない。今は円高だが、10年後には円の価値はずっと下がってしまうかもしれない。そのときどうしたらいいか。そのとき必要になるのは、国際社会の中で生き残っていくことのできる力。日本という枠にとらわれず、外国の人たちと仕事をしていくことのできる力。外国人が部下かもしれないし、ボスかもしれない。そのとき、他の人たちと協力して、協調して、助け合っていくことができる力。自分は今既に、そういう職場で働いている。今回のロンドン出張は、世界中からバークレイのマネージャーが集まる会議に出席するため。そこには色んな国の人がいる。そこで今自分が活躍できるのも、立教があったからだと思っている。単に英語ができるというだけではなく、寮生活を経験することで、他の人たちと一緒にうまくやっていく力を得ることができたと思う。そういう話をしてくれました。
もう1つ。昨年の東日本大震災のあと、大勢の地元のイギリス人から励ましの言葉をいただいたり、募金に進んで協力していただいたこと。大震災後にいち早く中国・韓国から、そしてイギリスから、アメリカから、ニュージーランドから救援に来てくれたこと。この学校でも去年のJapanese evening のときに、イギリスから救援に駆けつけてくれた消防士さんに来ていただいてお話を聞きました。日本では原発の問題のためにかすれてしまいがちのような気がしますが、海外にいる私達はこのことをしっかりと覚えておく必要があると思います。
国際人になるということ、色々な人と仲良くやっていくということ。最初から僕は国際人になるぞ、と思って国際人になれるわけではありません。それは毎日の生活を積み重ねていく中で、知らず知らずのうちに自然に身についていく、朝起きた後のベッドメイク、すれ違う人との挨拶、食事の席でのテーブルマナー、隣の人への思いやり、同じ部屋の人との距離のとり方、そういうものすべてが、いつか君達の、未来を生きる力につながっていくのだと思います。
ここには146人の個性にあふれた生徒がいます。君達はよく、「うちのクラスって濃いよねー」という話をします。皆自分のクラスが一番個性的だと感じると思います。それだけお互いのことをよく知っている証拠です。インドからミャンマーに来て、今回ベトナムに引っ越した人もいます。実はこの学校で一番国際的なところは、イギリスにあるということではなくて、君達自身です。
そんな個性的な仲間たちと、今日から新しい生活がスタートします。
上級生は今まで先輩から色々教えてもらった、そのことを忘れずに、今度は自分が下級生の面倒をみてあげてください。下級生は先輩が優しいからといって甘えすぎないように。礼儀を守る、けじめをつける、言葉遣いに気をつける、そういうところをきちんとできなければいけない。そういう下級生の上に、初めて優しい上級生という存在が成り立っていくのです。それを忘れないでください。
「受けるよりは与える方が幸いである」
という聖句を先学期の礼拝で聞きました。使徒言行録でパウロが伝えるイエスの言葉です。
「受けるよりは与える方が幸いである」
人からあれをしてほしい、これをしてもらいたい、そんなことばかり考えて生活するのではなくて、君たち自身が、学校をよくしていくためには何ができるのか、後輩のため、友達のために何をしてあげられるのか、いつもそういうことを考えながら、これからの立教生活を送っていってほしいと思います。
君たち1人1人の成長を祈って、本日の入学・始業礼拝式の式辞とさせていただきます。