英国には(正確にはコモンウェルスには)リメンブランスサンデーという日があります。11/11の直近の日曜日に多宗教の人間が参加し、午前11時より2分間の黙祷する儀式です。この日のことを今学期、授業にて取り扱いました。
何故11/11かと言いますと、第一次世界大戦(WW1)が休戦協定を締結した日だからです。
1914年から1918年にかけて、世界はWW1の戦禍に見舞われました。
日本では印象が薄いWW1ですが、日本が諸外国と戦争をしたWW2や、現在に至る世界の様々な問題の発端は、このWW1です。
午前11時にビック・ベンの鐘が鳴り響き、ロンドン中心地にある大きな慰霊碑に、女王、大主教、政治家、軍人達が花輪を捧げる様子がBBCで生中継されます。
英国では各市町村の中心に慰霊碑があり、その日は教会での礼拝後、行列を組み慰霊碑まで進み、そこで黙祷が捧げられます。
この日の数週間前から、プラスチック製のポピーが至る所で売りに出され、それを人々が胸に付けます。その売り上げは英軍関係者への募金となってます。
何故赤いポピーか。
WW1の主戦場の一つであるフランダース地方で、戦闘が終わると戦場には赤いポピーが咲き誇りました。当時の塹壕戦によって地中にあったケシの種子が、掘り返され、活性化されたためです。
ですから一面の赤いポピーは、まさに戦争によるものでした。
また赤い色は兵士の血によって染まったとも、若くして命を落とした兵士たちが切り取られた花にたとえられているともいわれています。
従軍していたカナダ人の医師で詩人でもあったジョン・マックレーが書いた詩がきっかけとなり、赤いポピーが戦没者慰霊と平和への象徴となりました。
リメンブランスサンデーは当初WW1を記念しての日でしたが、後にWW2や、全ての戦没者慰霊と平和の日となっていきました。
実はある意味、日本とも無関係とは言い切れない日なのです。
この日の礼拝では、コヒマエピタフ(墓碑銘)というものが読まれます。
コヒマとは、インドの奥地、あの無謀なインパール作戦の舞台の一つです。
コヒマでの戦いは激戦を極め、勝利したはずの英国・インド軍にも心身共に大きな傷跡を残しました。
そのコヒマにあるコヒマエピタフには、次のように刻まれています。
‘When You Go Home,
Tell Them Of Us And Say,
For Their Tomorrow,
We gave Our Today’.
“君、故郷に帰りなば伝えよ
祖国の明日の為に
死んで逝ったわれらのことを“
コヒマエピタフの出典は、WW1後、英国のギリシャ古典学者、ジョン・マックスウェル・エドモンズが、タイムズ紙の06/02/1918 page7に書いた4つの墓碑銘の一つです。
元々はSimonides of Ceos(556-468BC)の作で、テルモピュライの戦い、スパルタとペルシアの戦いの時のものです。
この墓碑はコヒマの激戦地にだけあるのではありません。
日英戦友会の寄付がされたコヒマのキリスト教の大聖堂の中にも、日本語でも刻まれています。
「1944年の春、ここコヒマでは、ガリソン高地の争奪に日英両軍が鎬を削って戦い、彼我合わせて数千の将兵が、祖国の為に死んで逝きました。
“君、故郷に帰りなば伝えよ
祖国の明日の為に死んで逝った
われらのことを“
ガリソン丘にあるこの碑文は、亡くなった日・英・印全将兵に共通の想いであり、そして彼らが願った「祖国の明日」とは、平和と繁栄に満ちた祖国だったと確信します。
しかしいまや世界は狭くなり、世界の平和なくして祖国の平和も繁栄も有り得ません。
私たちはお互に国境を越えて共存共栄に努力することが大切であり、これが引いては、亡き勇士達の願いに応える事にもなりましょう。
このたび、カトリックの聖堂がコヒマに建立され、朝夕亡き勇士にミサを捧げてくださることは誠に有難いことです。
又、地元の皆様が司教様と一緒に末永く往時の勇士を偲んでくだされ、彼らが願った平和と繁栄の為に精進くださるならば、これに優る供養はございません。」
リメンブランスサンデーの礼拝ではコヒマエピタフが読まれた後、次のように司式者と会衆は唱えます。
Will you strive for all that makes for peace?
We will.
Will you seek to heal the wounds of war?
We will.
Will you work for a just future for all humanity?
We will.
そしてその後、聖書が拝読されます。その一つがヨハネによる福音書15章、最後の晩餐にて弟子たちの足を洗った後の箇所です。
『わたしがあなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。これがわたしの掟である』
この言葉の意味や重みを生徒達が感じながら、成長していくことをお祈りしております。