ウエストミンスター寺院 東日本大震災追悼式
平成23年(2011年)6月5日(日)午後6時30分-8時、ロンドンのウエストミンスター寺院に約2000人の人々が集まり「東日本大震災追悼式」が行われました。こちらでは4月以来ほとんど雨が降らず、草原も茶色に変わり野菜や果物、麦やトウモロコシなどの生育にも心配がなされていましたが、なぜかこの日は大雨の日でした。礼拝堂内は半数が英国人や各国の人々、半数が日本人の人々で満席、まさに会衆席は埋め尽くされました。当然の事ですが、つい先日行われたウイリアム王子とケイトさんの「ロイヤル ウエディング」の司式者団のうち、カンタベリー大主教を除いた、ほとんど同じ寺院のキャノンたちが司式して行われました。これに私も司式者の一人として招かれ加わりました。会場に備えられた礼拝式文のパンフレットの表紙には、墨で記された「絆」の文字がありました。礼拝堂の中は充実した緊張の雰囲気が感じ取れました。
1995年阪神淡路大震災が起こり大坂川口の主教座聖堂も塔が壊され礼拝堂も傾きました。私はその礼拝堂の床から鉄の棒を拾い、それで主教の十字架と指輪を作り身に着けて復興を誓いました。この礼拝にもその十字架と指輪を着けて司式に加われたのは、日本では縁と云うのでしょうか。
聖歌と共に十字架を先頭にしたプロセッションで式は始まりました。開会のお祈りに続き現在ロンドン大学の大沼教授が震災、津波、原発,避難などの経過と現状について報告されました。ここで朗読された旧約聖書の日課「エレミヤ書4章23-26節、31章1-6節」には、震災と全く同じ様子が記されているようで驚きを覚えました。続いて英国赤十字社の代表がその活動について話され,今までに義援金14億円が集まり現在も続けられています。今回の礼拝の前後にも募金が行われ義援金に加えられます。
続いて追悼の式として、約30名の日本人の子供が手に灯したロウソクを持って並び行列、司式のキャノンと在英日本大使が花束を供えました。それと同時に日本山妙法寺の僧侶数名による「南無妙法蓮華経」の朗々たる読経、また数人による大太鼓の奉納の音が礼拝堂内に大きく勇壮に響き渡りました。さらに岩手花巻の宮沢賢治さんの「雨ニモマケズ」の朗読が続きました。私が中学三年生のとき花巻に賢治さんの両親と弟さんを訪ね、仏壇の前でこの詩が記されている手帳を自分の手に取って読んだことがあるので、これもまた胸に深く響くものがありました。この詩の心こそ復興を願う私たちの願いそのものでしょう。
ロンドン橋の南サザーク大聖堂の大執事の説教は、松尾芭蕉の「奥の細道」から、立派な日本語で俳句を引用し朗読した深くもまた素晴らしいものでした。礼拝後に私が「私も芭蕉が好きで何度も跡を訪ねましたが、今回は本当に驚きました。」と話すと、彼は「芭蕉は大きくて深く大好きです。東京の隅田川近くの芭蕉庵にも行きました。」などと話していました。
日本人女性合唱団のスコットランド民謡「埴生の宿」の英語と日本語の合唱の後、私と他の日本人二人で日本語と英語で、亡くなった方やその家族のため、避難している多くの方々のため、放射能汚染に苦しむ人々のため、また政治や地域の指導者、復興に向けて努力している様々な分野の人々のため、こうした人々に主の恵み励まし希望が与えられるようお祈りしました。最後は主の祈りと祝祷です。
再び十字架を先頭にプロセッションで退場の後、司式者団は出入口に立ち挨拶を受けました。私も何十人という人々から「今回の礼拝は本当に素晴らしかった。深く胸を打たれた。思わず目に涙が溢れた。イギリスや世界の人たちがこんなにも日本を応援してくれているのか良く分かって感動した。」などと次々に感謝の言葉を掛けられました。私も心から感謝の気持ちに満たされ、この礼拝を計画し実現に協力して頂いた英国聖公会とウエストミンスター寺院の沢山の人々に深く感謝し、「この礼拝を通しても分かるように、英国や世界の人びとが日本の人々のことをこんなにも心に留めお祈りし支援して下さっていることを必ず日本の教会や人々に伝えます。」と話しました。実際に今までもこちらで会う英国や各国の人々は会うと必ず声をかけて下さいます。
翌日の朝学校に来たら、立教の先生から「JSTV(日本衛星放送テレビ)のニュースで、昨夜の礼拝の様子を放送していて、高野先生の姿もきちんと映っていましたよ!」と言われました。ここに海外でも多くの人びとが日本の復興を心から願い祈っているということをお伝えしたいと思います。