早春の良き日である本日、立教英国学院中学部、及び、高等部の皆さんが卒業される運びとなりました。心からお祝い申し上げます。おめでとうございます。
そして、お子様の成長を見守り、この日を感慨深く迎えられた保護者の皆様、校長先生はじめ先生方におかれましては、日本とは異なる環境の中、色々なご苦労があったことと拝察致します。
本日、大きな節目の日を迎えられましたことを心からお慶び申し上げます。
卒業生の皆さん、皆さんが本日こうして卒業されるまでには楽しかったこと、辛かったこと、様々な思い出が残っていると思います。間もなく東日本大震災からちょうど二年になりますが、大変大きな被害を受けた東北の人たちを助ける活動に、イギリスの人々と共に参加した人も多かったのではないかと思います。そのこともあり日本とイギリスの絆は益々強まったと思います。そこで本日は、皆さんに日本とイギリスの交流の歴史の一つのエピソードについてお話ししたいと思います。
皆さんは、今から150年前の1863年に、「長州ファイブ(または長州五傑)」と呼ばれる5人の長州(今の山口県の一部)の若い武士達がイギリスに留学したことをご存じでしょうか。
その5人とは、みなさんも名前を聞いたことがあると思いますが、初代総理大臣の伊藤博文をはじめ、井上馨、山尾庸三、井上勝、遠藤謹助です。
当時の日本は、依然として、日本人が外国へ渡航することを許可しておらず、5人は密航により、このロンドンへやってきたのです。
この頃、今のように交通が発達していなかったので、船で4ヶ月以上もかけてイギリスに着きました。もちろん、お客さんとして乗船したわけではなく、船の上でも甲板掃除をさせられる等、困難の連続でした。そこまでして彼らがイギリスに来たのは、当時の日本が外国とどのように係わるべきか、欧米の強国を相手に日本がどうしたら生き残れるか、自分たちは、国のために何をなすべきかと深く考え、そして、強い志を抱いていたからでした。
そして、イギリスに到着した彼らが目にしたのは、蒸気機関車や蒸気船、高い煙突を持った工場等であり、彼らは、さぞ、驚きを覚えたことでしょう。5人は、工場に弟子入りする等、大変な苦労をしてこのような発展の成果を学び取ろうとしました。5人は、また、貧困等のイギリス社会の影の面にも眼を向けたようです。彼らが、こうした困難を乗り越えられたのも、ロンドン大学のウィリアムソン教授が自分の家に5人を家族と同じように暖かく迎え入れてくれたということがあったためです。
その後、日本へ帰国した彼らは、イギリスで学んだ沢山のことを日本に取り入れ、日本の最初の総理大臣となったいとう伊藤博文は、「日本の憲法制定の父」、最初の外務大臣となった井上馨は、「近代日本外交の父」、東京大学工学部の前身を設置した山尾庸三は、「日本の工業の父」、鉄道庁長官となった井上勝は、「日本の鉄道の父」、造幣局長となった遠藤謹助は、「近代日本の造幣の父」と呼ばれるようになり、それぞれの分野における日本での先駆者として、日本の近代化に大きな足跡を残したのです。
今年は、この交流から150年を記念して、日英両国において長州五傑に関する様々な記念行事が行われます。
是非、皆さんも辛い思いや、困難をものともせず、5人の若者のように世界の優れたものを学びとり、さらにそれを世の中に役立てる、そういう気持ちを持って前に進んでいってください。
皆さんが、5人と同じようにこのイギリスの地にある立教英国学院で学んだことを、いつまでも大切にして、これからの歩む道に生かしていって欲しいと願いつつ、立教英国学院卒業・終業礼拝に寄せる私の祝辞とさせていただきます。
平成25年3月9日
在英国日本国大使館
総領事 今村 朗