人間の品格
林 和広
4年に一度のワールドカップがブラジルで開催され、世界中が注目しています。各国代表がプライド、誇りを持って戦い、熱戦が繰り広げられています。選手たちのプレーだけでなく、選手の振る舞い、サポーターの振る舞いなどがメディアに取り上げられるときもあります。その国の選手、サポーターの品格というものに目が注がれます。
チャプレン(学校付きの牧師)として本学院に来てから、立教英国学院生としての品格、プライドという言葉を耳にします。振り返れば、自分が高校生や大学生の頃も「我が校の生徒としての品格、プライドを持って」という言葉を何度も聞いていたように思います。数年前には品格ブームで様々な本が出版されていたことを思い出しますが、本学院の生徒に求められている品格とはどのようなものなのかを自分なりに思い巡らせてみました。
Pro Deo et Patria(プロ・デオ・エト・パトリア:神のため、世界のために)。これは本学院の生徒たちのブレザーの胸にある校章に刻まれている言葉です。これは日本の立教学院の教育理念を示す言葉です。Pro Deoとは直訳では「神のために」となりますが、この言葉が歴史的に「普遍なる真理のために」という意味を有していることから、立教学院では知の遺産を受け継ぎながら、常に真理を探し求める人を育てることを目的としています。そして、Pro Patriaとは直訳すれば「国のために」となりますが、この言葉を「私たちの世界、社会、隣人のために」ととらえ、この世界、社会の隣人に愛し、共に生きることのできる人を育てることを理念としています。この理念の土台にあるのは、一人ひとりが神に愛された存在であるというキリスト教の精神であり、キリスト教に基づく全人教育を掲げている本学院もこの精神を大切にしているのであります。
私はチャプレンとして聖書の授業も担当しています。ほとんどの生徒がクリスチャンではありませんが、小学部から高等部までの全ての学年にこの授業があります。受験科目でもなく、全く馴染みのない「聖書」の授業を受ける生徒はどのような気持ちで受けているのだろうか、そして、一日の中の貴重な五〇分を頂いて「聖書」の授業をするにあたり、何を学ぶか、ということは本学院に派遣されることが決まった時からいつも考えていることです。静かに聖書を読んだり、「キリスト教と映画」と題して映画を見て、視覚を通してキリスト教、歴史を学んだり、キリスト教の霊性に基づいて書かれた著作を読んだりしていますが、これらの学びを通して、生徒が学んで欲しいことは、一人ひとりが尊く大切な存在であるということ、そして、大きなビジョン、広い視野を持って生きるということです。極めてシンプルなことです。
本学院は真の国際人を育てることを教育理念の一つとして掲げています。そのために様々な知識、語学力を習得するために必死で学んでいます。これらは国際人になる者として重要なものです。それに加えて大切な素養とは、広い地平でこの世界を見渡せる目と、他者を認め、大切に想う心だと思います。国際人とはつながりを構築する人です。知識や語学力だけでは本当のつながりは構築できません。
私自身も生徒との授業を通して、新しく気づかされることがたくさんあります。生徒たちの素朴な質問や疑問や感想によって目が開かれることが何度もあります。授業を通して、私がこれらの素養を身につけるノウハウを教えているのではなく、一緒になって探究する時間となっています。
品格とは辞書によれば、人の持つ気高さや上品さという意味を持つそうですが、当然、それは「自分は他のものとは違う」という優越感を持って振る舞うことではないでしょう。
品格「Dignity」とは、「尊厳」という意味もあります。自分はこの世界を超えた存在によって創造され、愛されている者であるという尊厳を持ち、そして、他者を自分と同じように尊く、愛されている存在であることを認めることだと思います。品格のある人とは、一人ひとりの人間を尊い存在として受容し、つながりを持つことができる人のことだと思います。
本学院の生徒が学問的な知識だけでなく、学院生活における学び、寮生活、スポーツやその他全ての活動を通して、人として最も大切な品格を養って頂ければ幸いであります。