「パチパチパチ…」
心地良い拍手がセント・ジョンズ・スミス・スクエアに鳴り響いた。僕は観客に礼をして、ステージを去る。長かった四十周年記念コンサートが終わった。
朝六時に起床して、バスに揺られ、セント・ジョンズ・スミススクエアーに着いた。思ったよりも大きな会場が僕にプレッシャーをかける。
僕はフルートでジョン・ラターのスイートアンティークからプレリュードをやることになっていた。この曲は四月から練習していて、苦手な暗譜もほぼ完璧だったので、そこまで緊張はしていなかった。
開演三十分前。控え室にいる僕は不安になり始めた。オープンデイでの大失敗を思い出した。そのコンサートのときも同じ曲を演奏したが、途中でど忘れしてしまい、指が止まってしまったのだ。それからずいぶん練習したから大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら最終調整をする。
ついに開演。気付けば、会場にはたくさんのお客さんがいた。自分の順番が近くなるにつれ、高まる緊張感。そんな時、少し考えた。こんな立派なホールで演奏するのは最後かもしれない。こんな大勢の前で演奏するのは最後かもしれない。どうせ最後なら、この緊張感も楽しんでやろう。
ステージに上がる。目の前にはたくさんの観客。でも、もうそんなのは気にならない。演奏が始まると思い出される今までやってきた練習。終盤に向け、落ち着いた曲とは逆に高揚する僕の気持ち。
約三分の曲は、あっという間に終わった。ただ、この短時間で得た達成感、満足感はいまだかつてないほどだった。完璧ではないが、自分ができる最高のパフォーマンスができたと思う。
コンサートが終わり、学校へと向かうバスの中。目を閉じると広がるステージ上からの風景。僕はこの風景を一生忘れない。
(高等部3年 男子)