入寮の日から日数が経ち、日本の家にいる愛犬が恋しくなり始めた頃、メールでジャパイブの参加希望のフォームがきたときは、何を選ぶか迷いました。なにしろ私は、生まれも育ちも日本なので、一部の武道を除けば全部の企画を一応はこなせる自信がありました。それで、どうしたものかと思いながらも友達の話を又聞きしながら決めたのが、剣道でした。
理由は、小学校3年生で辞めてしまったものの、四年間は習ったことがあったのと、「剣道の経験者」という求められるハードルの高さから参加希望者が少なく、他の企画よりも有意義な経験になりそうに思えたからです。
そんな感じで剣道に決めた後に、もう何年ぶりかというのも忘れるほど久しぶりに、道場との境をまたぎました。もう足を運ぶこともないと思っていたのですが、内心では、遠く離れた現地の人にみせるだけというから、そこに集まる人もそれ相応のレベルだと甘い見積もりを建てていて、それが私の足取りを軽くしました。
そんな半端な覚悟で来た私は、結構大変な目にあいました。
それは、私がみんなと違って、防具の付け方を忘れていたためです。
素振りをした後防具を着る流れとなったのですが、私が剣道を習っていたのは十年以上前。もちろん防具の付け方なんぞは覚えていませんから、当然のように防具をスラスラ付ける同い年の人を流し目で見て、なんとなく絶望さえしました。
集まった人の中には僕と同じように防具を付けれない、初心者の人がいたけれど、それもあんまり慰めにはなりませんでした。出来ると思っていたことが、出来ない。
打ち込んだものが記憶から抜け落ちて、当時の時間を無駄にしたと思うほど、けっこう悲しかったです。小3で辞めた人などお話にもならないように感じました。
それからはとにかく勉強です。剣道指南動画、友達に教えてもらう、先生に聞くなど、模範的な学習態度で精進した私の防具付けの技術ですが、その根っこにあったのは、恥ずかしい思いをしたくない、というものです。人と比較して、出来ないのは恥ずかしいから頑張る。なんだか時代にそぐわないつまらないことを言ってるようにも思えたのですが、立教合格以来、どこか腑抜けてしまっていた私には、これがひどく素晴らしい有意義で、初めての体験をしているように思えました。
その後練習したかいあって、本番でも防具の付け方は問題なく、現地の人に武道を語っても
恥ずかしくないようなパフォーマンスが出来たのに加えて、思いの外、試合のときの足運びを忘れていなかったため、同級生の人に二本先取で勝てたことも嬉しかったです。
「剣道って楽しい」うまく表せないこの思いは、自分より明確に強い人がいるからこそ味わえたものでした。いい経験ができて、面白かったです。終わり。
(高等部1年男子)