3学期アウティング:ミュージカル、『レ・ミゼラブル』を見て

3学期アウティング:ミュージカル、『レ・ミゼラブル』を見て

「下向け、目を合わすな。下向け、仲間を見ろ」
幕開けは、囚人達の暗く重い、辛い労苦を耐え忍ぶ声だった。警官と目が合ったら、それだけで鞭打たれることが分かっているのだから決して目を上げるな、と言っているのだ。当時の情勢をよく表わしている始まりであると思う。
ジャン・バルジャンは、元々心根の優しい少年だった。彼には妹がいたが、家が貧しかったためパン一切れを買うお金の余裕もなく、妹を飢え死にさせない為にパン一切れを盗んだのだった。彼は逮捕されるが、妹や家族を思い何度も脱獄しては捕まっていた。19年経ち、仮の自由を手に入れてからも彼は人の為に自ら人生を歩んでいく。
もし、彼が貧乏な家の生まれではなく、中流もしくは上流階級の生まれの者であったなら、彼はどのような人生を送っていたのであろうか。権力やあり余る金銭を駆使して、社会の弱者に尽くしたのであろうか。そういうこともあるかも知れない。だがしかし、私はそうではないと思う。彼は辛く苦い経験をしたからこそ、そしてその上であの立派な司教と出会ったからこそ、彼の人生は最後美しく輝いていたのだろうと思う。
妹のためにパン一切れを盗みさえしなければ、彼は19年も肉体的にも精神的にも、あそこまで傷付けられることはなかったかも知れない。だが19年苦しんで一人ぼっちにならなければ、彼はあの司教と出会うことはできなかった。そしてその司教のどこまでも強い優しい心に触れ、彼自身があそこまで輝くこともなかったのだ。
経験する苦しみや出会う強さ優しさの形に違いはあるだろうが、これは今も昔も全ての人に当てはまることだ。苦しんだり、傷付いたりするから、人は人の優しさを知ることができるようになるのだろうと思う。そして優しさを知ったから、人は人に優しくできるようになるのだろう。ジャン・バルジャン。彼は良きキリスト者であった。私は時々、彼が天使にすら見えてくる。彼のような立派な人間になることは難しいかも知れないが、せめてどんな人にも分け隔てなく接し、忍耐強さと優しさを少しでも多く持った人間になれるように、人を笑顔にできるよう日々努力していきたい。
(高等部2年生 女子)