僕の在学する立教英国学院は毎年一学期の終わりに全校生徒でウィンブルドン観戦に行く。ウィンブルドンはロンドン市の南に位置する近郊の街で試合会場の周囲には広々とした公園がある。大勢の観客が早朝からこの公園に並んで開場を待つ。僕らもまた、その列に夜明け間もない頃から並び朝の寒さに耐えつつ芝の上に腰を下ろす。友人達とともに早朝の公園で長々と会話する機会などめったに無いが、毎年恒例のこの行事は自分にとって夏の訪れを感じさせるひとつの風物詩でもある。
並びはじめの頃は皆学生なので早朝といえど楽しく談笑したりしているのだが、日が高くなるにつれて睡眠不足の兆しが見られ始め、しまいにはレジャーシートの上で寝てしまう人が出てくる。最上級生になったものの、例年と変わらない友人達の姿を見ることはどこか落ち着くものがある。
11時を回りようやく会場の中に入ると疲れもいつの間にか無くなり、選手や観客達の熱気に圧倒される。この会場で興味深いと思うのは、試合はもちろんであるが、来場者の様子を観察するのもまた面白い。普通は20ポンドを払って中に入るのだが、それだけでは入れない場所もある。主要な試合がとり行われるコートは座席指定のチケットを買わなくてはならない。ここまでは日本の野球場などでも見受けられるので違和感はないが、独特の雰囲気を出しているのが会員制の建物である。入り口には古風な制服を着用した守衛が2人直立している。建物の中に入っていく人は皆一様にジャケットを羽織って正装している。高いところより観戦する彼らの姿は何とも羨ましいものではあるが、それと同時にイギリスの階級社会を垣間見るものとして滑稽に感じるのである。
僕は今年で最後のウィンブルドン観戦であったが、この様子は恐らく10年後、20年後もイギリスを象徴するものとして変わらずにあり続けるだろう。その変わらない姿をみるためにもまたいつか来ようと思う。その時だけは、仮に何年先の出来事であったとしても、きっと今の友人達の姿もまた思い出せるに違いない。そんなことを頭の片隅で考えながら、夕立に霞む丘よりウィンブルドンに別れを告げた。
(高等部3年生 男子)